箱根隻眼山一目寺
どんな伝承か
花の林を抜けた武士は古い小さな寺に入った。仏壇の金仏の左目が潰れており、碁を打つ老僧と小僧も、羅漢も、天井の天女や鳳凰も、壁画の鳥獣もみな片目であった。老僧はここは隻眼山一目寺で人の来る所ではないと告げた。武士が強がって小粒の金を供え、もう片方の目も開けてくれと言うと、仏像をはじめ形あるものすべてが大声で笑い出した。逃げ出すと籠かきが待っていて、二人とも左目が潰れていた。目を閉じて乗れと言われて従うと、籠は空を飛ぶように進み、降ろされた所は江戸の紀州藩邸の前であった。その夜から片目の老僧が枕元に現れて命のはかなさを説き、武士はやせ衰えて死んだという。
原典より
と、仏像ががっくりと黒い口を開けて、は、は、は、はと笑った。—— 日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。