阿波・天狗に書道武芸を習った白痴
どんな伝承か
井上円了の『妖怪学講義』にある話。阿波国美馬郡定光村に、生まれつき白痴同様の者が住んでいた。ある日ふらりと出たまま姿を隠したが、日数を経て帰ってきて、自分は天狗のもとに遊んで書道および武芸の技を学んできたと言った。それから日夜を選ばず庭前の立木に向かって撃剣を試みるとなかなか上達し、日々書字を試みるとこれもまた大いに熟練した。名声が四方に聞こえ、ついに徳島藩主に召されて撃剣の師範となった。友人が妻帯を勧めると、天狗が固く禁じたと言って断り続けたが、再三勧説されてついに妻を迎えた。すると同時に書道も武芸もたちまち衰え、再び以前の白痴同様に戻ってしまったという。
原典より
自分では是れ皆天狗に學んだのであるといつてゐた。—— 變態心理と犯罪(中村古峽) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
變態心理と犯罪(中村古峽)
『變態心理と犯罪』は、雑誌『變態心理』を主宰した中村古峽による変態心理学の論集である。二重人格・夢遊病・狐憑き・神隠し・催眠術を心理学の立場から解き、大本教・天理教・金光教の神懸りを妄想や人格変換として退け、霊能を称する火渡りや針刺しなどの実験の種を明かす。終わりには迷信や二重人格のからむ大正期の犯罪事件の実話を収め、著者自身の被験者や綾部の大本教訪問の見聞も例に引く。