夜具の下に首だけが残った女
どんな伝承か
暖かな春の夜、江戸川べりに住む若い侍が、本郷の親類で酒を振る舞われての帰り、切支丹の山屋敷手前の坂の桜の下で、色白の美しい女に出会った。女は浜松在の者で、叔母を訪ねて来たが行き先が知れず困っていると訴え、侍は独り身の住まいへ連れ帰って泊めた。翌朝、なかなか起きない女の夜具をめくると、体はなく首だけが寝ていて、切り口は血まみれだった。首は前日、山屋敷の門口の板橋のたもとで処刑された遊女のもので、桜が咲くまで待ってほしいと願い死刑が延びていたのだった。侍は発狂し、桜の季節になると「花が散る」と騒いだという。
原典より
怪しい首は、前日、山屋敷の門口の板橋の袂で切られた罪人の首であった。—— 日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が書いた怪談・奇談の短編集である。著者が「私の村」と呼ぶ土佐の海村の迷信を語る「鷲」のほか、高岡郡や長岡郡、野根山など土佐の話を多く含み、越中の放生津や立山、銚子の利根川口、京の寺町、摂津の味泥、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の妖術を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人や土地の人から聞いた話として語る篇もある。