西湖でスコールを止める
どんな伝承か
著者はかつて十人ほどの友人と富士五湖の西湖のほとりで休んでいた。荷物はすべて二キロ先の茶屋に置いてきていたが、湖の向こうから黒雲が押し寄せ、大粒の雨が湖面をたたきながら迫ってきた。二十メートルほどまで来た雨しぶきに両手を上げて待ってくれと叫ぶと、雨は目の前でぴたりと止まり、その向こうでだけ降り続いた。皆で茶屋へ走る間、雨はすぐ後ろを追ってきたが追い越さず、茶屋に駆け込んだとたんに激しく降り出した。この話をインドで聞かせたのが雨やみの術の始まりだという。
原典より
すると大雨は眼前でストップし、そこを境にして、その向こうでバシャバシャやっていた。—— 山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年))
『山とお化けと自然界』は、西丸震哉が旧著三冊と雑誌の一篇「ワシは安禄山」を編み直し、一九九〇年に文庫版あとがきを付けた随筆集である。「自然界はもちつもたれつ」「酒」「山」「兄との交信」の四部に、チョウや小動物、山や湿原の探検、酒と温泉の話とともに、横尾谷の岩小屋の幽霊、釜石の幽霊、木曾御岳の人魂、呪い殺しの実験、雨やみの術など著者自身の怪異体験をつづる。あとがきに『未知への足入れ』『山だ原始人だ幽霊だ』『山の動物誌』を元にしたと記す。